身代わり王子にご用心




高宮さんと共に入ったのは、ショッピングモールの飲食店街にあるお店の一つ。本格的なレストランではないけど、それでもチェーン店よりは高級感がある感じ。


陽気なイタリアをイメージしているのか、店内の窓が大きくて昼間ならかなり明るそう。今は吊り下げ式のドロップ型照明が仄かな光を放って手元を照らす。


ベージュの壁面に木目調の椅子や机。観葉植物がたくさん置かれていて、個々のテーブルが仕切られているように見えた。


「いらっしゃいませ、ご注文がお決まりになりましたらお声をお掛けください」


ウェイターがメニュー表とレモン入りのお冷やを持ってきてくれたので、思わず頭を下げてから受け取る。


(えっとお値段は……)


どさくさ紛れに着いて来ちゃったけど、高宮さんはどういうつもりでここに来たんだろう?


メニューを見るふりをしながらチラチラと彼を見ているうちに、ばっちりと目が合って飛び上がりそうなほど驚いた。


「好きなものを頼め。ワインはオレが注文する」

「は……はあ」


好きなもの……って。こんなところでご飯を食べる予定なんてなかったから、ハンバーガーでもと考えてたんだけど。


「選ばないなら勝手に注文するぞ。このコースで……」


いつまでも決めない私に焦れたらしい高宮さんは、一人3000円以上もするコースを二人前注文しようとしてた。


とんでもない! と私は慌ててナポリタンと海老のカクテルサラダを注文する。彼は舌を噛みそうなメニューを言い付け、メニュー表が取り下げられた後はやたらと静かな時間が訪れた。