身代わり王子にご用心





「へぇ、アンタもそんなの読むんだ」

「へっ!?」


思わず間が抜けた声を上げてしまったのは、いるはずがない人の声が横から聞こえたから。


まさか……と思ってチラリと横を見遣れば、案の定高宮さんが雑誌のコーナーで立っていた。

よもや当人に見られているとは思わず、震えた手から2つの本が滑り落ちる。バサバサッと鈍い音が耳に届いたところで、ハッと我に返る。


その本は高宮さんの手によって、レジカウンターに載せられていた。


無機質なバーコードを読み取る音がして、店員が値段を告げる。慌てて小銭入れを出すと千円札を二枚出してお釣りを受け取る。


レジから離れて紙袋に入った本を抱えた私は、所在無さげに立ち尽くすしかない。


どうして、高宮さんがここに? 単に本を買いに来ただけだと思うけど……。


(だって……今日マンションにはマリアさんが)


だったら、私に構ってる時間などないはず。そう考えてペコリと頭を下げた。


「そ、それじゃあ……私はこれで」


素早く立ち去ろうとしたのに、突然腕を掴まれて足を止めざるを得ない。


「……あの、なにか?」

「今日、時間はあるか?」

「は……?」


高宮さんがなぜ、そんなふうに私の都合を訊いてくるんだろう? マリアさんと関係があるのかな?


「……特に予定はありませんけど」

「じゃあ、付き合え」


高宮さんはそう言うと、私の腕を掴んだままさっさと歩き出した。


「ちょ……高宮さん!」


私の抗議なんてどこ吹く風で。連れてこられたのは、ちょっとお洒落なイタリアンレストランだった。