私はたぶん誰かに救出してもらえたと思うけど、気がついたら病院にいた。幸い怪我は大したことなかったけど、あの日からだった。大谷さんの苛めと悪夢が始まったのは。
大谷さんはずる賢くて、人の目がない場所でしか私をいじめなかった。泣いたら口を手で塞がれて、耳や頬をつねられたっけ。うるさい……って。
泣いてる時も延々と私を否定する言葉を呪いの様に吐き続けた。幼少の一年間登下校の度にそんなことをされていて、自分に自信を持てるはずがない。
結果的に、私は自分に自信を無くして内向的で気弱な人間になっていった。
(何もかも大谷さんの思惑通りだったかもしれない……でも)
これから私は、新しい自分を作りたい。
だったら、心機一転して新しい環境に身を置くのも悪くはない。
一から新しい人間関係を作り上げるためにも。
とは言うものの、やっぱりヴァルヌスのことは知りたい……と思った私は、結局ガイドブックも手にレジに並んだ。
(ド、ドイツ語講座もあるから……憶えても損はないから。買うだけ)
内心自分に言い訳しながらも、本当の気持ちは解りきっていた。
……知りたい。
彼の体に流れてる血のうちの1つ、ヴァルヌスという国のことを。
彼を少しでもいい、理解したいから。
(バカなことを……葛城のお嬢様と同じで、私が想ったって相手にもされないのに)
それでも、知りたいという気持ちは止められなかった。



