身代わり王子にご用心




(……高宮さんは……祖母がヴァルヌスの人と言ってたっけ)


創業記念パーティーではヴァルヌスが祖母の母国と言ってた。だから、あんなふうにブルーグレイの綺麗な瞳を持ってるのかな?


そういえば、カイ王子の母は弥生妃だって坂上さんが話してた。カイ王子のお母様が日本人で高宮さんの祖母がヴァルヌス人なら、どちらもヴァルヌスと日本人の血が流れてる。


だから、あんなふうに同じようなブルーグレイの瞳を持っているの?


(それに……)


カイ王子……なの?


お屋敷のサンルーム越しに私が見た、ちっちゃな王子様は。


大谷さんに苛められ始める前、私は年相応に明るくお馬鹿だった。サンルームから出られないつまらなさそうな男の子が気の毒で、ガラス越しにいろいろと作ってあげたんだ。


雪だるまとかかまくらとか……一番喜んだのは、雪うさぎだったっけ。


なんてんの赤い実を目にして作り上げた雪うさぎ。それをプレゼントすると、銀色の瞳を輝かせて嬉しげに笑ってくれた。


あの笑顔は可愛かったなあ。


だけど、それは突然壊された。


いくつも年上の女の子が、鬼みたいな形相で私の手ごと雪うさぎを踏みつけたんだ。


“汚ならしい! あんたみたいな庶民があたしの王子様に近づこうとするなんて。そんな権利ない!! さっさと出ていけ!”


真っ赤な目を釣り上げた彼女は、体重を掛けたまま足をぐりぐりと動かした。私は痛みと混乱で泣き叫んだかもしれない。


痛いのに熱くて冷たくて、感覚が麻痺して。雪から赤い液体が滲んできて。


そのまま、彼女は私の周りに雪をぶちまけ続けて、半分以上雪に埋められた。