「私……何も盗ってません!」
「水科さんは黙ってて。とりあえず君は現行犯の容疑者だ。そのまま見てなさい」
事務所を代表してきたであろう桂木さんが、ひどく冷たい目を私に向けてきた。
まさか、じゃない。桂木さんも私が泥棒したと疑っているの?
彼には私の貧しい懐事情を知られてる。だけど、2ヶ月近く一緒に暮らして来たのに……あっさり泥棒認定されるほど、信頼されてなかったということ?
(う、ううん……違う。桂木さんは公平な仕事をする人だ。こんな時に私情を挟んだりしないから、信頼される。私も彼を信じるべきだよね)
落ち着いて、落ち着いて。私は何も悪くない。頼まれごとを引き受けただけ。何も盗んでなんていないんだから、堂々としていればいい。
そう思いながらも、嫌な予感で鼓動が速まっていく。大谷さんが私をはめようとするなら、これだけで終わるはずがないんだ。
そう、私の嫌な予感は当たるもので。
「浅井さんの財布が見つかりました。免許証も入ってます」
警察官が手袋をした手で私のバッグから拾い上げたのは、見慣れない赤い財布。
……本当に、嫌なものほどよく当たるんだった。
「水科さん、これはどういうことですか?」
桂木さんが酷く軽蔑したような、失望や憤りを隠さない目で見てきたから。
もう、ここではいられないのかもしれない……と覚悟を決めて。ただ真実のみを口にした。
「浅井さんに咳に効くハーブティーを取ってきて欲しいと頼まれて、彼女から鍵を受け取って取りに来ただけです。財布なんて触れてもいません」



