身代わり王子にご用心





「水科さん……あなた、浅井さんのロッカーを開けて何をしているの!?」


そう言いながらズカズカと中に入って来たのは、よりによって大谷さんだった。


また来たか、とうんざりしながらも、私は冷静にと自分に言い聞かせる。


「何って……浅井さんに頼まれたお茶を捜しに。アレルギーの咳がひどいから、ハーブティーでないと止まらないと聞いて頼みを引き受けたんです」

「あら、おかしいわね? 浅井さんはアレルギー持ちなんかじゃないけど?」

「え?」


大谷さんは腰に手を当てて、さもバカにしたように私を笑う。


「あのね、浅井さんがロッカールームの鍵がないって事務所に言ってきたの。昨日無くして今朝かけてないから、って。
だから、無くなったものがないかを確認しに来て。そうしたらあなたが浅井さんのロッカーを漁ってるじゃない。
下手な嘘をついてまで、泥棒を正当化したいわけ? 全く、どこまで浅ましい人なの」

「正当化なんて……私は確かに浅井さんに頼まれました!」

「ですってよ。浅井さん、あなたは本当に彼女に頼んだのかしら?」


大谷さんがくるりと振り向くと、後ろに出てきた人がおずおずと顔を出す。


それは当の浅井さん本人で。彼女は、おどおどしながらも……首を横に振った。


「いいえ……わ、私は……水科さんには、な、何も……お話だってしてません」