「ゴホッ、あのう……水科さん」
オリコンを畳んで移動させてる最中、レジ担当のパートである浅井さんが私に声を掛けてきた。
「はい? 浅井さん、どうかしました」
「ゴホッ……あの……すいません。コホッ……ちょっとお願いごとをしてもよろしいでしょうか?」
「はい。別に構いませんけど」
浅井さんの頼みごとは、ロッカーから飲み物を取ってきて欲しい、というもの。
なんでも、独自の配合をしたハーブティーで。それを飲まないと、持病の咳が酷く出るという。
たしかに、今も絶えず咳が出てつらそうだ。私も最近ひどい風邪をひいたから、咳の辛さはわかる。こんな時に階段を使わせるには忍びないから、私は素直に頼みを引き受けた。
「コホッ……すみません……Aの202が私のロッカーです。これが鍵です」
「わかりました。少しだけ待っててくださいね」
こんな体調不良まで大谷さんの仕業の訳がないだろう、と私は鍵を受け取り別の人にひと言言い置いてから、売り場を離れた。
急いでいたせいか、途中でドンッとお客様にぶつかりそうになってしまった。
「気にしなさんな。急いでるならもう行きなさい」
40代らしきヒゲ面のお客様はよい方で、そう許してくださったから。申し訳ありませんともう一度謝ってから頭を下げてロッカールームへ急ぐ。
ロッカールームに行くと、この時間帯にしては誰もいないことを不思議に思いながら。一応警戒を忘れずに浅井さんのロッカーの鍵を開ける。
そして、言われたバッグを開いてみた。
(あれおかしいな……水筒なんてないけど?)
バッグの奥を捜そうと手を入れた瞬間、バタン、とロッカールームのドアが開く音が響いた。



