身代わり王子にご用心







さすがに王子様は午後になると居なくなってホッとした。


(そりゃあヒマじゃないよね。王族の公務はたくさんありそうだから)


……だけど、と商品補充の中でふと手を止めてしまう。


“本気でないなら、マサユキには近づかないで”――。


そうおっしゃったカイ王子はマリアさんのことを知ってる様子だった。

あの言葉は高宮さんに関しての牽制とも取れるけど、なぜ王子がわたしと高宮さんを結びつけるのだろう? 彼への気持ちはなるべく抑えるように気をつけているのに。


(朝礼の時だって王子は紹介だけされたら事務所に戻ってたし。大谷さんとのやり取りを聞いてた訳じゃない。なのに、なぜ私にあんなことを言ったんだろう?)


そもそも、私は高宮さんから軽蔑されているのに……。


その現実を思い出すだけで、ズキンズキンと胸が痛んでくる。パーティーの夜にあった辛い思い出が胸を苛んで。


私は高宮さんから相手にされるはずもない。第一、彼はマリアさんだけ。彼女だけを見て彼女だけを愛しているのだから、私なんかに目を向けることすらないのに。


(そんなに牽制しなくたって……私の一方的な……)


きっと、これは誰のためにもならない。こんな気持ちは奥底に沈めてフタをしてしまえばいい。


どんな奇跡が起きたって、報われる可能性がない想いなんて。ただ苦しく辛いだけだから。