身代わり王子にご用心




「あの人、カイ王子をお世話したことがあるって言ってたじゃない。王子には知らないって言われてたけど、小さかったから憶えてないだけかもしれないし。
もしも大谷さんが言う通りあの人の父親が議員で、お屋敷に住んでたなら。その縁でお世話したのは嘘じゃないだろうけど。議員のお嬢様がなんで今こんなところでパートとして働いてるのかしらね。
やっぱりあの噂が本当なら、没落した家のお嬢様として、変に高いプライドとか持ってるのも納得だわ。
なら余計に気をつけなさいよ、桃花ちゃん。王子に絡まれてたあんたは余計に恨まれてるかもしれないんだから」


坂上さんの警告は身に染みて解ってる。


たぶん……私は、かつての大谷さんと関わったことがあるはずだ。思い出してきた過去の断片と、今まで見てきた黒い影の夢が、ピタリと合致したのだから。


「……そうですね。あの人なら、きっと私に新しい嫌がらせをしてくると思います」

「そう? なら、あたしも協力するよ。出来ることがあるなら……」


坂上さんがそう仰ってくれるのが有難い。


なら、と私は今までの彼女の行動パターンを思い出し、そろそろ仕掛けて来そうな嫌がらせを予測して坂上さんと対策を練った。


急いで昼食をかきこむと、トイレに籠って準備をする。久しぶりに使うものに戸惑うけど、証拠のためだと言い聞かせて何とか使える状態にした。


休憩を終える前にロッカーに寄ると、なるべく自然に見える形で作業を終えた。