「カイ王子が……この地区に、ですか?」
「う~ん、名前までは知らなかったけど。来日時にかなりの話題になったことは憶えてるよ。弥生妃がお屋敷に滞在されてた時、4つの息子にせがまれて見に行ったから。ずいぶん雪が降って寒い日だったねえ」
雪が……!?
それを聞いた瞬間、私の中でくっきりと浮かび上がった光景があった。
雪……王子……ガラス越しの会瀬。
記憶の断片が繋ぎ合わさった時、思わず立ち上がりそうになるほどの衝動を覚えたけど。必死になってそれを抑える。
「その時、王子様はご覧になりました?」
「ん~……遠い柵越しだったし、護衛もいたからね。あんまり見えなかったかな。ただ、近所の子ども達だけは大胆に庭で雪遊びしてたかな。サンルームのそばで雪合戦したりねえ。元は羨ましがってたっけ」
サンルームのそば……庭で雪合戦。
(やっぱり……あの時の色は)
「……にしても。大谷さんがあれだけ静かなのが気になるわね。何かをしでかさなきゃいいけど」
カレーライスに生卵とソースをかけた坂上さんが、危惧をする。



