身代わり王子にご用心








お昼休憩は幸い坂上さんと同じ時間に取れたから、社員食堂で並んで席に着く。


「あら、いつもお弁当なのに珍しいわね」

「あ、はい。寝坊しちゃったんで」


250円の日替わり定食を選んだ私を、坂上さんが物珍しそうに見た。ちなみに彼女は定番のカレーライスだ。


日替わり定食はご飯と汁物とおかず一品に漬物がつく。今日は豚汁にアジのフライに茄子の浅漬け。なかなかお得感がある。


「今日はいろんな意味で大変だわね」

「そうですね……」


高宮さんがバイクで警察署に送ってくれたり、朝礼で大谷さんに絡まれたり、また高宮さんに助けられたり、王子様に乱入されたり。1ヶ月ぶんくらいの疲労感が……。


「バルスだっけ? あんまり聞かない名前だけど。そこの王子様と高宮くんと知り合いなんて意外ね」

「ヴァルヌスですよ。私も全然知りませんでした」


だけど、と坂上さんは何かを思い出すように腕を組んで考え込む。


「う~ん……あの王子様、たぶんここに来たのは初めてじゃない……んじゃないかしら?」

「え?」


スプーンを取った坂上さんは、大好きな福神漬けをつつきながら思い出したように話した。


「ほら、あのサンルームがあったっていうお屋敷。そこに異国の王子が遊びに来た時があったのよ。お母様である弥生妃が親友を訪ねたのでね」