「ねえ、この食品ってなに?」


見たもの見たものが珍しいのか、カイ王子は漬物や練り製品なんかの売り場で足を止めて説明を求めてきた。


ヴァルヌス王国って正直どんな国かは知らないけど、日本食に関してはあまり紹介されてないのかな? インターネットやマスコミがこれだけ普及してるのに。と疑問に思いながら、丁寧な説明を心がける。


「これはお刺身にお寿司。お刺身は生の魚介類を食べます。お寿司は握った酢飯の上に生の魚等のネタを載せてわさびとともに醤油で頂きます」

「寿司は知ってる! ヴァルヌスの首都にも最近できたんだ。僕はイクラが好きだな」


意外にもカイ王子はお寿司を経験済みだったみたいだ。イクラが好きだなんて。

「ヴァルヌスにもお寿司屋さんがあるんですか?」

「あるよ。あんまり日本食の店はなかったけど、最近ぽつぽつ出来始めたんだ。何せ内陸国で山が多く海が遠いからね。新鮮な魚介類を手に入れるのが難しかったんだ」


内陸国……か。


「スイスに近いんですか?」

「いいや。ドイツとオーストリアに挟まれた国だよ。やっぱり君もヴァルヌスは知らないんだね」


カイ王子に指摘されてしまって、自分の無知ぶりを晒したんだと気づき慌てて謝った。


「も、申し訳ありません!」

「いや、いいんだ。僕も知りたいことがあるし」


カイ王子は低い棚の商品を見るふりをしながら、私に小声でこう仰った。


「……マサユキのこと、本気でないなら近づかないで」