身代わり王子にご用心





「あらあら、あんな幼稚なイタズラをして周りに迷惑を掛けたのに来るなんて。さすがに図太い神経をしているのね」


ロッカールームでわたしの顔を見た途端、大谷さんの嫌味は発された。


今日も朝一番の全体朝礼のためか、早番の社員だけじゃなく早出のパートやアルバイトももう出勤してた。今日は藤沢さんが休みで桂木さんが遅番だけど、私はそれでも一人で大丈夫と言い聞かせた。


もちろん藤沢さんは自分も休みを潰し出勤すると騒いだし、桂木さんは早く出ると言ってたけど。私は2人を説得して思い止まらせた。


先制攻撃でもあるこれは、誰の手も借りずに一人で挑まないと意味がない。


いつまでも誰かに甘えていたら、これから先困った時に自分で何とか出来なくなる。


これからずっと一人で生きていくのだから、自分で対応できることを増やすために。勇気を振り絞らなきゃ。


キュッと拳を握りしめ、奥歯を噛んで勇気をかき集める。唇の端を上げて、顔の筋肉を使い……大谷さんに向けて、笑った。


「そうですね。昨日私、ハサミやカッターを忘れたのに、どうやって制服を切り刻んだんでしょう? それに、朝出勤してから帰りまでは一度も鍵を開けるどころかロッカーにも寄ってないのに。不思議ですよね」

「な……何よ! その目は。まるっきりわたしが犯人みたいじゃない」

「そうですか? 私はただ、あなたが何かを知ってないかと……」

「知ってるわけないでしょう! ムカつくわね、あんた!!」


バタン! と大谷さんが乱暴にロッカーを閉めて行ってしまった後、私は膝から力が抜けてへなへなと座り込んだ。


だけど……


初めて……言い返せたんだ。


私の中に、ほんのちょっとだけ自信が生まれた。