身代わり王子にご用心




「悪いけど、あたしはこの子を小学生から知ってるよ」


坂上さんの意外なひと言に、ハッと大谷さんが息を飲む。


「今は社会人になった息子がこの子の3つ下でね。小学校の集団登校や集団下校の時に同じ班だったんだ」


集団……登校?


その言葉を聞いた途端、心臓が嫌な音を立てた。


「あの時から桃花ちゃんは引っ込み思案な子だったけど、言われたことはきちんと守る真面目ないい子だった。息子がイタズラした時はちゃんと注意をしてくれて、一緒に大人に謝ってくれた。そんな正義感の強い子が泥棒なんざするはずないだろ!」


坂上さんはすごい剣幕で大谷さんを怒った。私を庇ってくれただけじゃなく、そこまで信頼してくれたことが嬉しくて。涙が出そうになる。


「だいたい、防犯カメラや警察の検証でも犯人は桃花ちゃんじゃないってきちんと証明されたんだ。なのになんであんたはそんなに桃花ちゃんを疑うの?
それほど犯人だと言いふらすなら、桃花ちゃんが犯人だって確かな証拠があって言うんだろ?
なら、ここで言いふらすよりも警察に言えばいいじゃないか。違うかい?」

「そ、それは……」


大谷さんは他にもごちゃごちゃ言ったけど、どれも説得力に欠けるものばかりで。そら見たことか、と坂上さんが呆れた顔をした。


「なら、あんたはちゃんとした証拠がないのに桃花ちゃんを一方的に犯人扱いしただけなの? それって名誉毀損とかじゃないのかい?」

「……」


ぐっ、と大谷さんが言葉に詰まってた。顔を真っ赤にしてたけど、坂上さんに完膚なきまでに叩かれ、何も言えず別の売り場へ逃げていった。


ただ、鬼のような顔で私を睨み付けるのは忘れなかったみたいだ。