「坂上さん、気をつけてね。その人すごく手癖が悪いから」
……やっぱりきた。
カウンターのストコンでタブレットの接続方法を教えていると、婦人服の直しの受け付けを終えた大谷さんがクスクス笑ってた。
「在庫チェックは後でもう一度しなきゃね。きっと数が合わなくなるはずよ」
「そう? そんな泥棒がここにはいるんだね」
坂上さんがそう答えると、大谷さんはしたり顔で話す。
「そうよ! 以前アクセサリー売り場で10万円近い商品がなくなってね。開店前だからお客じゃないってことで騒ぎになったわ。結局犯人はわからなかったけど、わたしはそこにいる図々しい誰かさんだと踏んでるの」
嬉々として話す大谷さんを、坂上さんは黙って見てる。私は下手なことを言えずにただ見守るしかなかった。何か言えば大谷さんに揚げ足とりをされるだけと解っていたから。
だけど。
坂上さんは私の方を振り向くと、ただひと言聞いてきた。
「あんたはやったのかい?」
「いいえ……私は何も盗ってません」
疚しいことは何もないから、坂上さんの目をまっすぐに見て答えた。すると、彼女はふむと頷いた。
「そうだね、あんたは泥棒するような人間じゃない。それはあたしがよく知ってるよ」
坂上さんが出した結論に、大谷さんは激怒した。
「なによそれ! あんた何を聞いてたわけ? 他の社員がやってないのに、そいつ以外誰がアクセサリーを盗れるって言うのよ!」



