身代わり王子にご用心





女性用のロッカールームに入ると、今日は大谷さんは早めのシフトらしく姿がない。ホッとしてロッカーを開ける。


配置替えはしてもらえても、ロッカールームは共通だから顔を合わせないのは無理。たまに見かけると相変わらず嫌がらせをしてくるから、会わないに越したことはないものね。


休み明けだから洗濯してきた制服に着替え、もう一着は予備としてロッカーにしまっておいた。


ロッカー備え付けの小さな鏡でメイクや鏡をチェックしていると、後ろのロッカーから坂上さんが声を掛けてきた。


「あ、水科さん。今日、悪いけど在庫チェックの指導してもらっていい? あたしはどうもあのタブレットってやつが解らなくてね……」

「あ、わかりました」


40後半の坂上さんはどうも通信機器全般が苦手らしい。携帯電話も大きなボタンがあるリモコンに似たストレート端末だし、パソコンはキーボードに触っただけで壊したという強者。
大谷さんや他の社員と顔を合わせなきゃいけないのは気が重いけど、坂上さんが申し出てくれたお陰で今の売り場に行けたんだ。多少の困りごとなら手助けしなきゃ、と引き受けた。