ぼんやりとした顔と、あまり焦点が合ってない目。いつもならすっぱり起きるのに、これだけぼ~っとしているのは徹夜の影響から?
私は咄嗟で何も答えられず、ただ彼のブルーグレイの瞳を見つめるしかない。照明の加減か彼の瞳がいつもより青っぽく、髪の生え際が銀色がかって見えた。
そして、彼は何事かを呟いた。
「Sie sind charmant……」
ズィー? たぶんドイツ語だろうけど、英語とは微妙に発音が異なる。もちろん意味が解らなくて、目を瞬きながら彼を見つめた。
トロン、とした目は寝起きだから? それとも私をマリアさんと間違えてるから?
ジッとしたままの私は、唐突に彼の腕に包まれる。フッと香るあのムスクの香りが、心臓と呼吸を狂わせる。
(駄目……これ以上ここにいたら、おかしくなる!)
抵抗の意味で彼の腕をバンバンと叩いた。その度に彼は意味不明なドイツ語を耳元に囁く。
やがて、彼は私の顎を掴むと。何かを甘く囁いて顔を近づけてきた。
「だ……ダメっ!」
耐えきれなくて思わず手のひらで顔を押さえると、ようやく目が覚めたらしい高宮さんは2、3度瞬きしてから不機嫌そうに眉を寄せた。
「……なんだ、アンタか」
「……っ!」
彼は私を離して立ち上がると、髪をポリポリと掻いてあくびをする。
「邪魔、早く出ていって」
素っ気なく私を突き放す冷たさは、いつもの彼で。涙がこぼれそうだった私は、彼の部屋から走り去った。



