「もしも予定がなかったらですが、これから夕食でも取りながら仕事のお話を聞かせてもらえますか?」
桂木さんは私と藤沢さんに優しく訊ねてくるけど、イブの夜にお店で一番モテる人が恋人や恋人候補の女性を放っておいていいのだろうか?
「あの……わ、私はありませんけど。桂木さんこそご予定があるんでは?」
私ごときのために貴重な時間を潰させたくないし、第一こんな私が複数人数とはいえ桂木さんと食事なんかしたら、どんなひどい中傷を受けるかわからない。
なのに、桂木さんはフワリと微笑んで予想外の答えを出した。
「いいえ、あいにく寂しい独り身でして。今夜はがら空きです。ですから、いくらでも時間は作れますよ。ただ、今からお店はどこも混んでるでしょうから、自宅のマンションになりますが構いませんか?」
桂木さんは従業員出入口から出てきた高宮さんを捕まえ、彼の肩をポンと叩いてにこやかにおっしゃいました。
「心配ならコイツも同行します。何より、コイツは料理がプロ級の腕前ですからね。期待してください」



