「注射とか点滴とかどうするんですか? 血液検査だってありますよ」

「全部薬にすればいいだろ」


子どもだったらむくれていたであろう口調。さすがにこれ以上弄るのは気の毒だから、先に進もうと促せば。 左腕をつき出された。


「え?」

「アンタは一時とはいえ、オレのパートナーなんだ。一応恋人役を意識してろ。主賓への挨拶や対応はオレに任せて、ただ愛想よく笑っておけばいい」

「は、はい」


そういえば、桂木さんが何かを言ってたけど。緊張のあまりスコーンと頭から抜けてた。


(だけど……さっきよりは緊張が解れたかな)


高宮さんが針が大嫌いと拗ねてたお陰で、笑ってガチガチの体から余分な力が抜けたんだ。


おずおずと彼の左腕に自分の手を添えて、もう片手に用意されてた小ぶりのバッグを持つ。高宮さんがゆっくりと歩き始めて、それに合わせて進むのは苦にはならなかった。


履きなれない踵の高いパンプスは、気を抜くとすぐ足元がぐらつきそう。慎重に歩きながら途中で気づいた。


玩具担当の高宮さんは、ゲーム機や電動玩具の簡単な修理する時もある。


その時、かなり小さなドライバーを使う。マイナスのドライバーで最小なものだと、針とそう変わらない太さしかないのに。高宮さんは平気で修理をしてた。クリップやホッチキスの針も平気そうだったのに……。


(まさか……高宮さんは……私の緊張を解くために、わざと?)