「なら、もっとダメ。今日は健太朗くんと過ごしなさい。姉さんは大丈夫だから」
『でも!』
尚も言い募ろうとする妹をどう納得させようか、と思案していると。後ろから遠慮がちに声を掛けられた。
「水科さん、ご家族の方でしたらご挨拶しておきたいのですが、少しだけ電話を貸していただいてもいいですか?」
いつの間にかすぐそばにいた桂木さんがそうおっしゃる。はて? 同僚とは言うものの、接点がほとんどない彼が私の妹に挨拶する必要なんてどこにあるのだろう。
「い、いや……それは」
「大丈夫ですよ。ただ日頃からお世話になっている挨拶をしたいだけですから」
誰もが好感を持つ爽やかスマイルで言われれば、別に良いかなと素直に渡すしかない。私のケータイに入ってるデータなんてたかが知れてるから、悪用なんてしようがないもんね。



