『またそんなこと言って! お父さんとお母さんが死んでから、ろくにお祝いしてこなかったじゃない。お姉ちゃんはあたしの為に無理して頑張ってきたの知ってるんだよ?だから、今年こそお祝いさせてよ……』
桜花の声が震えて湿り気を帯びてきた。泣く一歩手前……この声に弱いんだ、私は。
思わずうんと答えそうになるけど、ここは踏みとどまらないと。妹にとって記念日になる大事な大事な時間。そこに割り込むのはやっぱり嫌だった。
「でもね、やっぱり私」
『お姉ちゃん! 私、来年には健太朗と結婚しちゃうんだよ。家族として祝える最後のチャンスなんだから。お願い! そんなに我慢ばかりしないで、もっとわがままになってよ』
あぁ、やっぱり。と私は納得した。桜花はプロポーズを受けたんだ。たぶん、来年3月3日の彼女の誕生日に入籍になるだろう。
お金がないと気後れさせないために貯めてきた、桜花用の結婚資金はあと少しで目標額に届く。よかったね、と私は人知れず微笑んでいた。



