身代わり王子にご用心






「イギリスから帰国されてたんですか?」

「そうよぉ、ちょうどあちらのコレクションも一段落着いたし、暁ちゃんがお店に来るって言うからね。これはと思って一時帰国したの」


オレンジ色に近い茶色の髪の毛をゴージャスに巻いた美女は、桂木さんとずいぶん親しそうだ。お年は……ちょっと判らないけど。


「それで、ずっと隠れて覗き見していたんですか?」


ん?桂木さんが何やら聞き捨てならないことを……。


「ああら、そんなの当店の趣味ってご存知でしょう。今さらよ」


コロコロと可愛らしく笑う美女だけど……


の、覗き見がお店の趣味って言い切るのって。到底信じられないんですが。


「あらあら、暁ちゃん。彼女が本気にしちゃったじゃない。
うふ、はじめまして。わたくし鈴野 富士美(すずのふじみ)と申しますわ」

「い、いえ。こちらこそ。私は水科 桃花といいます」


美女が艶やかに微笑んでわざわざ名刺を渡して下さったけど……そこには目を疑う肩書きがございまして。


「……あの、まさか……鈴野さんって」

「うん。“彼女”は、ハナエ·フジミの創業者のうちの一人で、チーフ·デザイナーです」


桂木さんの紹介に、私の開いた口が塞がりませんでしたよ。