「本来なら、警察に被害届を出してもおかしくない」

「け、警察……ですか?」


桂木さんは組んでいた腕を解くと、私の手にそっと自分の手のひらを重ねてきた。


ギシッ……と固まった私に、彼は真剣な顔つきで話す。


「あなたが大事にしたくない気持ちはよくわかりますが、それではますます相手を付け上がらせるだけです。牽制の意味でも被害届を出し、店長や本社にも事実を知らせるべきですよ。 社報で一斉に公表すれば、相手もしばらくは大人しくなるでしょう」

「……」


本社に強い繋がりを持つ桂木さんならではの、力強い言葉だった。


同僚としてここまで気遣ってくれるのは嬉しい。今まで藤沢さん以外の味方がいなかったぶん、かなり心強いのは確かだ。


だけど……。


私は桂木さんの話を反芻しながら、ゆっくりと口を開いた。


「ありがとうございます……でも、警察には届けません。店長には報告だけしておきます」