「『夏至の宵 憂いを帯びた眼差しに 映すは遠い 愛し君かな』」


「なーに、その短歌」


茜色に染まった教室で、少女達は話していた。


「家の蔵の中にあった、お茶碗と一緒に入ってたの」


椅子に座っている少女は手元の紙を隣の少女に見せると、その短歌について説明する。


「……わたしのお祖父様のお祖父様のお祖父様……要するに曾曾お祖父様が有名な詩人だったそうでね。小姓……今で言う召使だった少年とそういう関係だったんだって」


身内のことを話す時、少女はとてもうれしそうな顔をする。
隣に座る少女は、そんな少女に友愛ならぬ情を感じていた。


「この詠は、その曾曾お祖父様がその少年を『待宵草』に喩えて詠んだそうなの……」




『夏至の宵』、夏至の花である待宵草を見詰めている私の瞳には、近いようで遠い貴方の姿が映っています。




「素敵……」


「結局、曾曾お祖父様とその少年はその後すぐに始まった大戦のせいで離れ離れになってしまったそうだけどね……」


帰ろう、そう言って席を立つ少女の鞄を持ち、先に教室を出る。


空には鮮やかな茜が広がり、明日もまた熱い日になるだろうと、なんとなく思った。


-End-