無理やり起こした後、二人で屋根裏部屋に行く。

だからチビは不機嫌だ。


そりゃあそうだ。
魔法の鏡が怖くて、屋根裏部屋から逃げ出したばかりの筈だ。


そんな時に……
それも就寝中にいきなり……
見ず知らずの年上の女の言いなり……


チビでなくてもビビる筈だった。




 チビは夢でも見ていると思っているのか、屋根裏部屋のベッドでいつの間にか眠っていた。


でも却って、パパのお土産の鏡を探すには良いチャンスだと思った。


それは私がねだった物だった。


嘘か本当か。
お伽話に出てくる魔法の鏡だった。


年に数回しか会えないからなのか。
親子の時間を大切にしてくれたパパ。

ベッドでの絵本の読み聞かせは、パパが担当になる。

小学生だと言うのに甘えん坊で、やっと逢えたパパを独り占めしたかった。
それには、寝付くまで一緒に居られるこの時間が最適だったのだ。




 『パパ……魔法の鏡って本当にあるのかな?』


『あるって聞いたよ』


『もしあったら欲しいな』

パパの意外な言葉に私は驚いて、それをお土産に頼んでいたのだった。


そうだ。
確かに……
あの鏡は私が頼んだ魔法の鏡なのだ。


思い出した……
僅かながらに。




 それは摩訶不思議な鏡だった。

人物を写し出したらそのまま、まるで絵のように動かない。

一旦その状態になると、其処から動いてもずっとその人を映し出している。


まるでその人に執着するかのように。


私は、私を写したままの鏡が怖くなった。

だから母にすがり付いて泣いていた。


『これが鏡? あなた騙されたのと違うの』
母も呆れていた。


『可哀想に。でももう泣いちゃ駄目よ』
母は泣き虫の私を抱き締めてくれていた。


『いや、船の上ではちゃんと動いていたよ』
パパも反撃する。


魔法の鏡はこのようにして我が家にやって来たのだった。




 そう、外国航路の船長だったパパの土産だった。


『頼まれた、魔法の鏡だそうだ。言っておくが本物だぞ』
そう言いながら、屋根裏部屋で手渡してくれた。


(そんな馬鹿な!?)

そう思った。


でも私は確かに、その鏡が欲しいとねだっていた。

これから航海に出ようとしていたパパに……

でも本物だと言うパパの言葉が怖くて、それ以上見なかった。