真冬だというのに、穏やかで暖かな日だった。

ある日の午前。

公務の段取りをつけた私は女神国城下町へと下り、街を散策していた。

相変わらず活気に満ちた、赤煉瓦の敷き詰められた大通り。

通りを行き交う人々には笑顔が溢れる。

この時期にはドンヨリとした曇り空である事が大半なのだが、今日は気持ちがいいほどの澄み切った空なのも、人々の気持ちに影響を与えているのかもしれない。

…黒の旅団侵攻から一ヶ月。

また平穏な日々が続いていた。

あれから女神国周辺で戦闘行為は一切見かけられていない。

我が国の女神兵も鍛錬には余念がないものの、別段戦に駆りだされる事もなく、落ち着いた毎日を送っているようだった。

私は私で相変わらず公務に追われる日々。

女王というのは、姫君以上に忙しいものだ。

だが私が公務に時間を割いていられるのも、国が平和である証拠。

逃げ出したくなる衝動を抑え、精力的に義務を果たしている。

この散策も、実は女王としての私の重要な役割だ。

国内の活気、民衆の不平不満、そういったものを目にし、耳にしておく事も国政をすすめる上での重要な情報となる。

どんなに忙しくとも、これだけは欠かせぬ仕事の一つなのだ。

それに私にとっては、民衆の幸せそうな笑顔を目にする事が息抜きの一つになっていたりもする。

「…美しい花だな。この時期でも咲く花があるのか」

花屋の軒先に飾られていた可憐な花に見入る。

と。

「ひゃっ!?」

お尻に何かがぶつかる感触。

私は思わず声を上げてしまった。

振り向くと。

「おとめー!げんきかー?」

そこには小さな少年と少女が立っていた。