父の研究室がどこだったかなんて、見当もつかない。

それに、この廊下をうろうろしていて、もしも誰かに会ってしまったら。

ここの学生ではないことが、ばれてしまうかもしれない……。



「お父さん、教えて。」



ペンダントをぎゅっと握る。

これは、生前の父が母に贈ったものだ。

警察に押収されなかった、数少ない父の形見。


私の言葉に応えるように、ペンダントはキラッと光る。


そして、私は閃いた。


”細胞保管室”


幼い私の耳に残っていた、その言葉。

きっと、何度も父はその言葉を、口にしていたはず―――



廊下の突き当たりまでそろそろと歩むと、そこに細胞保管室はあった。

灯はなく、真っ暗なその部屋。

誰もいないようだ―――



ドアノブに手を掛ける。

しかし、それは何度引いてもびくともしなかった。

それはそうだ。


細胞保管室が簡単に開いてしまったら、この建物を厳重に封鎖している意味がなくなってしまう。



何度も確かめたけれど、その部屋は開かなかった。

唇を噛んで、そのドアを睨む。



閉ざされた過去を明らかにするのは、私が予想していたよりもずっと難しいということを知った。

私は、そのドアを前にして、何もすることができずにただ、立ちすくんでいた―――