いつも、そうして何かのきっかけを探していたからだろうか―――


その日、私は一人の女の人とすれ違った。

その人が、遠い記憶の中の人に似ているような気がして。

私は、はっと振り返った。



遠い記憶が蘇る。

私が、父を亡くしたあの日のことで、唯一覚えていること。

近所では見かけない、綺麗な女性。

その女性が落としたブローチを、拾った私―――


「ありがとう。……とっても大切なものなの。」


記憶の中のその人は、澄んだ声でそう言った。

そして、私に優しく微笑みかけた。



たったそれだけ。

父の死に、関係しているかどうかなんて定かではない。

いや、むしろ関係ないと思った方が自然だろう。


でも、何故だかあの日のことが、どうしても忘れられないんだ。

まるで、憧れのように。

あの綺麗な女の人が、私の心の中に住み着いている。

だけど、何かが引っかかる。

そんな存在として―――



気付いたときには、もうその人はいなかった。

どこかの校舎に吸い込まれていったのかもしれない。


いや、あの人がここにいるはずないんだ。

そもそも、10年前のこと。

まだ子どもだった私は、その女の人の顔なんてほとんど覚えていなかった。

ただ、雰囲気と優しい声を、ほんの少し思い出すことができるだけで―――



運命の糸は、この日から私を導いていったね。

答えを探し続ける私に、神様が味方してくれたのかもしれない。

どんな痛みを伴おうと、真実を知りたいと、この頃の私は真っ直ぐに願っていた。


孤独な天使は、まだまだ大人の世界を知らない、小さな子どもにすぎなくて―――