私の大学のキャンパスは、道路を挟んで東と西に分かれている。

西側は教育学部で、東側は工学部が主だ。

基本的に、私はいつも西側の校舎で授業を受けている。


父は、工学部の教授だった。

生命工学を専門としていたらしい。

幼い私には、父の仕事のことは何も分からなかったけれど。

若くして教授に抜擢された父は、この大学では皆に羨まれる存在であったようだ。


しかも、そんな父は大学の外で知り合った母と結婚。

そして私が生まれた。

あまりにも、幸せな人生だったんだ。

最後の、最後になるまで。



私はこの春、教育学部の3年生になった。

あの事実を隠すために、私は吉岡愛莉と名乗っている。

でも、私の本当の名前は、谷郷(たにさと)愛莉。

女児誘拐、監禁、そして殺害、の罪を犯して、自分も死んだ。

谷郷荘一(たにさと そういち)の、一人娘。


だけど―――

父の疑いを晴らすためにこの大学に来たのに、まだひとつも手掛かりは集められていなかった。

実力以上の大学に来てしまったこともあり、日々を過ごすのが精いっぱいで。

もっと頭が良くて、余裕があったなら。

そう悔やんで、いつもバイオリンを弾きながら、悲しい気持ちになるんだ。



何か、何か手がかりがほしい。


まずは、父のことを知っている人に会いたい。


そして、何か記録となるものを探したい。



はやる気持ちを抑えながら歩く私は、いつも一人だった。

どことなく、みんなとは雰囲気が違う私。

だから、表面上の付き合いはあっても、この大学に深い付き合いをする人はいない。

私は、いつも孤独だ。


私がこの大学に来たのは、勉強をするためでも、遊ぶためでも、ましてや恋をするためでもない。

ただ、父の罪を晴らすためなのだから―――