いつの間にか零れていた涙を拭いて、屋上から下を覗いた。

すると、ずっと下の渡り廊下で、同じように切ない顔で立っている人を見付けた。

その人は、まるで今まで、バイオリンの調べに耳を傾けていたようだった。

私と同じように、涙を片手で拭って。

そして、また歩き出した。


遠くだから、顔はよく見えなかった。

でも、その寂しげな背中は、どうしても気になってしまって。

その人が、大学の校舎に吸い込まれるまで、ずっと背中を目で追っていた。



「よし。」



決意を固めるように声を出す。

私がここに来た理由。


それは―――


父が勤めていたこの大学で、何かの手がかりをつかむためだ。

そのために、今までのすべてを懸けてきた。

一生懸命勉強して、難関大と言われる、この大学に入学した。


すべては、父のために。