孤独な天使

そしてある日のこと。

大学構内を歩いていた私は、後から突然呼びかけられた。



「愛莉!」


「……あ。」



向こうから来るのは、この間の男。

教授だなんて嘘を吐いた、変な院生。



「何してるの?」


「それはこっちのセリフ。大体愛莉って、ライフサイエンスの学生じゃないよな。」


「ええ。そうだけど?」


「そうだけどって、それならどうして忍び込んだりしたんだ?まあ、俺は助かったけど。」


「私にも事情があるの。あなたには教えない。」


「ああ、そうか!じゃあ、もう二度と出入りを手伝ってなんかやらんぞ。」


「教えたら手伝ってくれるってこと?」


「場合による。」


「ふーん。……考えとく。」


「それにしても生意気だなあ、お前!」



呆れたような彼の声。

私は正直、迷っていた。

このまま協力者も得られずに、一人で捜査を進めることなんて、無理なんじゃないだろうか。

そう思ってしまうんだ。


もしも、彼が協力してくれるなら―――


ぶんぶんと首を振る。

ううん、あんなこと誰にも言えない。

言えないよ。


もしも、私が父の子であることがバレたら、今度こそ生きていけない。

私は、目の前の彼に曖昧な笑顔を向けて、手を振った。