ーー上も、下も、右も左も分からない。


ーーここはどこなんだろう?


ーーああ、声が聞こえるーー





ピピピピ・・・



「ん・・・朝・・・」



目覚まし時計の音で目が覚める。


ーーまた、夢を見ていた?


耳に残る誰かの声。


でも何を言っているのか、誰の声なのか分からない。


誰もいない、何も見えない、聞こえない世界で。



「・・・そろそろ怖くなってきたな」



眠る度にあんな夢を見るんじゃたまったもんじゃない。


病気に行ったほうがいいのかな。


取り敢えず顔を洗いに洗面所に向かう。


階段を下りる度に鳴る軋む音が夢の延長で少し怖くなる。


空はまだ薄暗い。


まだ寒さが残る空気に身を縮こませた。


ーーそういえば、本、返してなかった。


親友から借りた本を借りっぱなしなのを思い出す。


そろそろ返さねば彼女の機嫌を損ねてしまう。


今日辺りに返さなければ。


そう思いつつ髪を縛るためゴムを手に取った。





「行ってきまーす」



無人の家に呼びかけて靴を履く。


返ってこない返事に首を傾げて思い出した。


ーー今日は両親が早く出て行くことを。


結果独り言を呟いていた自分に苦笑する。


鍵も掛けなければならない。


染み付いた癖だなぁとしみじみ思いながらドアを開けた。


ローファーを鳴らせて外に出る。



「今日もいい天気ですね、太陽さん」



両親の代わりに挨拶をして鍵を閉めた。


ーーその日は確か、3月のことだった。





下駄箱に靴を入れ、上履きに履き替える。


周りは誰もおらず、しんとしていた。


自分の足音だけが虚しく廊下に響く。


ーー今日は早く来たので屋上に行こう。


教室に行っても特にすることのないことに気付き、せっかくだからと行き先を変える。


せっかく開放されてるんだ、行ってみなきゃ勿体無い。


屋上に1人というのもなかなか珍しい。


誰も見てないのをいいことに少しだけスキップした。