だって、ここで涙を流してしまったら、本当にシキがいなくなってしまう気がして、シキと逢って話したすべての記憶が嘘だって、否定してしまう気がして。




「───ねえ、スイ。シキって、誰……?」



「……っ」


お願いだから、シキをいなかったことにしないで。

頼むから、シキを、俺から奪わないで。


───『…………後悔、する』



頭の中に、あの儚げな声が響く。

ドア越しに、彼女のこもった声が聞こえてくる。俺はあの時感じた胸の痛みを、また感じてしまう。


違う、違う、後悔なんてしない。

絶対に、後悔なんてしない。



───『きっと、……後悔、する』


シキに逢ったことを、後悔したりしない。絶対に……!

シキに逢えて、シキと話せて、俺は嬉しかった。嬉しかったんだ。

たとえ彼女が、どんな人間だって、どんな怪物だったって、俺はきっとあの時を何度繰り返すことになったとしても。


後悔なんて、しない。