嘘じゃない、幻覚なんかじゃない。違う、違う。

あの非常階段で、シキに逢って。俺は、気の利いた言葉が出なくて、シキは泣いていて。全部、あった、あったのに。何で。何で、何で、何でっ。


「……し、き?」


「シキが、ここに!ここに、いて、だから……っ」


「落ち着いて、ねえ、スイ」


夕雨が俺の肩をつかんで、揺らす。

落ち着いてなんて、いられるわけない。



シキが、いないだなんて。


シキが、いなくなってしまっただなんて。




「いるんだよっ……!

 シキはっ……、絶対、いる、いなくなったりなんて、」


唇を噛みしめて、俺は出てきそうになる涙を何とか引っ込めようとする。