なぜか、夕雨が怒りをぶちまけたような声じゃなくて、疑問をぶつけるような発音で、言う。 不思議に思ってもう一度視線を戻すと、夕雨は、言った。 「───誰よ、こいつって」 「は?」 「いや、だからこいつって誰。どこにいんのよ」 ぶわっと血の気が引いた気がした。 今までにないくらいに、背筋が凍ったような一気に血を抜き取られてしまったみたいな、立ちくらみ。 「あ、」 「ちょっと、スイ聞いてんの?」 夕雨のことなんて構わないかった。そんな余裕が、なかった。 俺はばっと後ろを振り返る。