「他に、好きなの……とか、ある」
「……雨は、好き」
「雨が?」
シキは変かな、と口には出さずに眉を下げる。小さく首を横に振ると、安心したように目を細めて───それから、遠い遠いどこも見ていないような真っ黒な瞳で、言う。
「雨は周りの、雑音も、何も聞こえなくなる、から。
そうすれば、耳を押さえて、聞こえないふりをするのも、少しだけ辛く……なくなる、もの」
その言葉が、なぜだか、俺の胸を痛める。
薄暗い教室を、頼りない教室の明かりが照らす。その光に照らされた彼女は、青白くて綺麗で、脆くて、壊れてしまいそうでそして───今にも、消えてしまいそうだったから。
俺はその表情をかき消そうと、躍起になって、いろんな話を次々に彼女へ振っていく。
次第に、口数が少なくなっていく。
それと比例するように、雨の音は激しさを増していく。



