振り返ると、呑気そうな顔をした短髪の男───凪(なぎ)がどうやったらそこまでへらへらできるのか、とでも言いたくなるほど愛想よくにんまり笑うと、
「また宛名のない差出人からっすか?モテますなースイ先輩」
「……違うよ」
「毎度毎度懲りもしないで、しかも誰にも見つからないで一体どうやって入れてんのかねえ」
「さあ、知らない」
俺の手から白い手紙を取ろうとした凪からひょいっと逃げて、俺はそれを手に持ったまま教室へ歩き始める。
「もうかれこれ9か月は続いてますぜ、旦那」
「そう、だっけ」
もう高校入学して、そんなに経ったのか。
ぼうっと窓の外を見る。
夏休みも終って、本格的に授業が始まりだして。もうすぐ文化祭もあって。めまぐるしく時が過ぎていく。なんの達成感も、なんの感動もないまま、ただただ時間だけがずうっと過ぎていく。