じゃあ、お前は。
俺は手のひらを握りしめて、からからに乾いた喉から絞り出すように言う。
「どうして、俺に話しかけられたとき───逃げたんだよ……!」
彼女は、何も言わなかった。
今すぐにでも、このドアをぶち壊してしまおうか。そうしたら、すぐに彼女に逢える。今こうして俺の中でくすぶっている何の見覚えもない、記憶にすらない感情の答えが、見つかるかもしれない。
実際、俺は後ろに数歩下がって、拳を高く上げてぶち破ろうとした。
今まさに、ドアに拳が直撃する直前。
「言ったよね、ここで……なにしてるのかって」
ぴたりと、止まる。
手が止まったわけじゃない、たぶん、体が動かなかった。



