あと、11分



聞きなれた声。

声のしたほう、真正面に顔を向けた。夕雨だった。何やらご立腹の様子で、まあ、思い当たる節はありありなんだけれども。

ここは逃げようかな、と足を翻そうとした、が。


「逃がさないわ」


襟首を掴まれて、一瞬ぴよぴよと小さいヒヨコが飛んでいるのが見えた。死ぬ。今のは、死ぬ。


「アンタ明日から文化祭だってのになんで手伝わないのよ」

「あーそうでしたっけ」

「とぼけるな。授業終わったらさっさとどこか行きやがって」


はあ、とため息をついて。

それから視線を横にやって、隣に香澄がいることに今更ながら気づいたらしい夕雨が、

「ちょ、何でアンタ王子様と一緒にいるのよ」

「素で王子様って言ってる夕雨に引いた」

「違う、香澄くんって言ったら王子様だってあだ名よ。わーわーちょ、恥ずかしい」


今更ながら、恥ずかしがってどうする。

香澄は見た目通りの潔癖らしく、加えて人見知りもある。夕雨に向けるまなざしはかなりきつくて、珍しく夕雨もあわてた様子だった。