聞きなれた声。
声のしたほう、真正面に顔を向けた。夕雨だった。何やらご立腹の様子で、まあ、思い当たる節はありありなんだけれども。
ここは逃げようかな、と足を翻そうとした、が。
「逃がさないわ」
襟首を掴まれて、一瞬ぴよぴよと小さいヒヨコが飛んでいるのが見えた。死ぬ。今のは、死ぬ。
「アンタ明日から文化祭だってのになんで手伝わないのよ」
「あーそうでしたっけ」
「とぼけるな。授業終わったらさっさとどこか行きやがって」
はあ、とため息をついて。
それから視線を横にやって、隣に香澄がいることに今更ながら気づいたらしい夕雨が、
「ちょ、何でアンタ王子様と一緒にいるのよ」
「素で王子様って言ってる夕雨に引いた」
「違う、香澄くんって言ったら王子様だってあだ名よ。わーわーちょ、恥ずかしい」
今更ながら、恥ずかしがってどうする。
香澄は見た目通りの潔癖らしく、加えて人見知りもある。夕雨に向けるまなざしはかなりきつくて、珍しく夕雨もあわてた様子だった。



