俺と違って、香澄はかなり理解が早いほうらしい。

そう言うと、何が考えるように首をかしげる。


「ところでさ、姉さんはどうして9年間もここに居続けるんだと思う?」

「……は?」


「いや、だから、9年間。正確に言えば9年と9か月、姉さんはこの学校この場所でずっと、成仏することなくここにずっといる」


成仏。

それは、聞きなれない言葉で、そしてあんまり考えないようにしていた言葉でもあった。


「……心残りが、あるから」

「俺もそう思う」


香澄が頷いてそれから、何かを言うべきか迷うように目を細める。


「昨日、帰ってからいろいろ考えたんだ。

 姉さんがここにいるのは、ずっとここにいるのは、何か思い残したことがあって、そしてそれは記憶を取り戻すことと何か関係があるんじゃないかって」