「ほら」
そう言って、いまだ膝を抱えてすんっと鼻を啜るシキに俺は自販機で買ってきたミルクセーキを手渡した。
けれどシキはそれを飲もうとはせずに、両手に持ったまま黙りこくる。
俺は彼女が話してくれるまで、待つしかない。
彼女が待ってくれたぶんよりもはるかに短いのだから、焦っても仕方のないこと。
でも動揺はしっかりと残っていて、自販機で買った缶コーヒーのプルタブを開けるのにかなり時間がかかってしまったのだけれど。
体育館へつながる外の渡り廊下は、じじじと今にも壊れそうな音を立てて作動する自販機と、シキのすすり泣く声以外に聞こえるものはなかった。
───思い出した。
彼女は、そういった。
だとしたら、思い出したのは9年前以降の、シキが生きていたころの記憶以外に思い当らない。



