「入学式、迷っているあなたを見つけて。話しかけたの。
……大丈夫ですか、って。肩を叩いた。それが、たとえ無駄だって分かってても。
そうしたら、スイは振り向いて。
それで、……それで、ね。スイは、言ったんだ。
道に迷ってしまったんです、って。
触れられた。スイに、触れられたんだ。
嬉しかった。
泣きそうなくらい、今にも、泣き出しそうなくらい。
声を上げて、泣きたいくらい。そうしたら、スイは困ったみたいに大丈夫って、声を掛けてくれた───それが、始まり」
多分、入学式なんてタルい式面倒くさいななんて、思いながら道に迷っていたんだろう。道を聞くなんてこと、俺にとっては、些細なことでも───彼女にとってどれほど嬉しかったのか、俺には分からない。
でも、きっと大切な記憶なんだろう。
入学式、今から9か月も前の話。
そんな前から、俺とシキは、逢っていたのか。
そして、───彼女を、忘れたのか。
「嬉しかった。わくわくした。本当に、嬉しかった。
───でも」
でも、と切って、シキは目を閉じて言う。



