あと、11分



「入学式、迷っているあなたを見つけて。話しかけたの。


 ……大丈夫ですか、って。肩を叩いた。それが、たとえ無駄だって分かってても。


 そうしたら、スイは振り向いて。

 それで、……それで、ね。スイは、言ったんだ。


 道に迷ってしまったんです、って。


 触れられた。スイに、触れられたんだ。
 
 嬉しかった。

 泣きそうなくらい、今にも、泣き出しそうなくらい。

 声を上げて、泣きたいくらい。そうしたら、スイは困ったみたいに大丈夫って、声を掛けてくれた───それが、始まり」



多分、入学式なんてタルい式面倒くさいななんて、思いながら道に迷っていたんだろう。道を聞くなんてこと、俺にとっては、些細なことでも───彼女にとってどれほど嬉しかったのか、俺には分からない。

でも、きっと大切な記憶なんだろう。

入学式、今から9か月も前の話。



そんな前から、俺とシキは、逢っていたのか。


そして、───彼女を、忘れたのか。



「嬉しかった。わくわくした。本当に、嬉しかった。


 ───でも」



でも、と切って、シキは目を閉じて言う。