「え、っと」

「……スイ?」

「何でもないよ、ちょっと考え事してただけ」


もしかして。
いや、違う。そんな、ありえない。

シキと目が合う。シキはすっと目を細めて幸せそうに笑う。その笑顔がすうっと心に沁みる。


「シキ」

俺が呼ぶと、シキは首をかしげてそれから小さく微笑んでどうしたの、と聞いてくる。

優しくて、温かくて、でも泣き虫で、よく照れて、でもどこか───芯の強さを感じる彼女。



「シキと、前に……逢ったことある、っけ」



2度目の質問。

シキは一瞬驚きを隠せないように、目を見開いて───それから、抱きしめたくなるほど、無理やりに笑みを浮かべて、言うのだ。



「ないよ、一度も」




あの時と、同じように答えた。