声を聞くたび、好きになる


 私と海音が早く打ち解けられたのは、血縁関係だから?

 あのお母さんとここまで話せるようになった今、私は『血は水よりも濃い』という諺(ことわざ)に信憑(しんぴょう)性を感じている。

「海音君とミユ、親戚ではあるけど血は繋がってないわよ」

 お母さんの説明によると、こうだった。

 私の父には兄がいる。私にとって血のつながった叔父だ。

 叔父と結婚した女性…私から見た義理の叔母の兄(有名画家)が、海音の父親ということである。

「私にとって海音は、義理の叔母さんの兄の息子、ってこと?」
「そうなるわね」

 血縁ではないけど、昔よく遊んだくらい親(ちかし)い親戚だったんだ……。


 誰と遊んだかーとかどんな親戚が居たかーなんて全く記憶にないけど、遊んだ場所の景色ははっきり覚えていた。

 子供の頃だし、海音と親戚関係にあったと知ったからってどうすることもないけど、昔海音が私を何かと気にかけていてくれたと知り、なんだか嬉しくなる。


 食器を洗いながら、誰に言うでもなく私はつぶやく。

「私のこと妹みたいに大事にしてくれてたのは、流星だけじゃなかったんだ……」
「何か言った?水流してると聞こえない」
「ううん、何も」

 首をかしげて不思議そうにこっちを見やるお母さんに首を振り、私は洗い物に集中した。

 昔、川遊びでケガをした部分がうずくような錯覚を覚えたけど、海音と接した過去のことはどうしても思い出せなかった。


 食器を洗い終えると、私は自室に戻った。

 ミユの仕事見学したい!そう言いダダをこねるお母さんをなだめるのは大変だった。本性出した瞬間あんなに甘えん坊な人になるとは。人って分からない。

 まあ、それで言うなら私もそうか。海音と関わってから素の自分ってものが湧き出てきた口だし。

 
 真っ先にスマホを確認すると、やっぱり、出版社からの着信履歴が残っていた。海音のスマホからの着信も一件入っている。

 反射的にドキッとしながらも、ここからは仕事の時間なんだと気持ちを切り替え、私は出版社に電話をした。

 電話に出るのが海音かどうかは分からないので、やっぱりまだ緊張してしまう。