「まだ二十歳だよ?結婚なんてもっと先の話だよ。それに、芹澤さんとは仕事の関係!」
告白されたことは、黙っておこう。何となく。
お母さんは疑うようにじとっとこっちを見て、耳を疑うようなことを言ってくれた。
「仕事とはいえ、“また”芹澤さんと関わることになるなんてね~。ミユと芹澤さんって、運命の赤い糸で結ばれてるんじゃないの?
離婚してからお父さんの親戚とは関わりなかったのに、不思議な縁があるものね。今回ミユの身元引受人になってくれたのって、芹澤さんちの海音君でしょ?」
「お母さん、芹澤さんと知り合いなの??」
「知り合いも何も、お父さんの親戚の子でしょ。ミユも昔、何度かあの河原で海音君と遊んでたのよ?って言っても、四歳か五歳かそのくらい昔の話だし、覚えてないのも無理ないわね」
「芹澤さんが、親戚??」
そうなの!?
「じゃあさ、芹澤さんのお父さんの話は知ってる?有名な画家だって聞いたんだけど……」
「知ってるわよ。法事や結婚式で親戚が集まると必ず話題になってたしね。でも、当の本人はほとんど家に帰らず、親戚付き合いにも顔を出さない変わり者だって、もっぱらの噂だったけど」
父方の親戚にそんなすごい人が居るなんて知らなかった。
もしかしたら、父は私にそのことを話したことがあったのかもしれないけど、昔から私は父のマシンガントークを聞き流すクセをつけていたから、スルーして記憶に残らなかった可能性大だ。お母さんとも会話がなかったから知りようがないし、親戚の集まりに行っても退屈だったからジュースを飲んでポツンとするか部屋の隅で寝ているかのどっちかだった。
「親戚だなんて、そんなこと芹澤さんは私に一言も言ってなかったよ?仲良かったのは昔の話だし、向こうも覚えてないんじゃない?」
「そんなはずないわよ。警察でミユを引き取った後、私に電話してきて海音君まず始めに『お久しぶりです』って言ったもの。お父さんのことがあるし、海音君、ミユにはそのこと言い出しにくかったんじゃない?」
お母さんは気まずそうに目をそらし、こう付け足す。
「今だから言えるけど、私ね、前に、家に訪ねてきた海音君を追い払ったことがあるのよ……。そのことを一番気にしてるんじゃないかしら」
「追い払った?いつ??」
「お父さんと離婚してすぐの頃よ。ミユのことが心配だったんでしょうね。海音君、何度も家にやってきて、ミユと話をさせてほしいって頼んできた。でも、私は私でお父さんの親戚に合わせる顔がなくて気まずかった。ミユと海音君に仲良くされたら困るって思ったの」


