声を聞くたび、好きになる


 話を聞きながらお母さんのたどってきた道を想像する。とても、責める気にはなれなかった。

「もういいよ、お母さん」
「良くないわよ。私の勝手さで、ミユをどれだけ傷付けたか分からない……」

 昔の私だったら、感情的になって容赦なく責めていたと思う。

 まだまだ子供っぽいと思っていたけど、そういうお母さんを理解できるほどには、私も大人になっていたのかもしれない。

「話してくれてありがとう。もう謝らなくていいから、今まで開いていた距離を、これからは一緒に埋めていこうよ」
「ミユ……」

 過ぎたことを責めたって、過去は変わらない。それなら、これからお母さんと過ごす時間をいいものにしていきたい。

 今までのことを何もかも忘れたわけじゃないけど、それも含めて親子の歴史だったんだ、きっと。

 こう思えるのは、血を分けた親子だからなんだと思える。それに、私がお母さんを愛している唯一の証明でもある。


「でも、よく、娘にそんな話する気になったね。いくら芹澤さんに注意されたからって……」

 夕食の食器を片付けながら、私は冗談ぽく言った。

「怖くなかった?私だったら一生黙ってると思うなー。非常識もいいとこだよ」
「だって、芹澤さんにミユを取られそうな予感がしたんだもん」

 子供みたいに、お母さんはむくれている。私は私で、盛大に驚いた。

「芹澤さんが!?それはナイよ!」
「そうかしらねー?私ね、芹澤さんから電話をもらって初めて、ミユがお嫁に行く姿を鮮明に想像しちゃったのよ~!!

 そしたら、もう一人の自分が、『今のうちにミユとの関係を改善して仲良く過ごせ!お嫁に行ったら滅多に会えないぞ!』って語りかけてきて……。

 キッカケは芹澤さんだったけど、最終的には自分で決めてミユに話したのよ。ミユが結婚するかもって思ったら、嫌われたくないなんて思い吹き飛んじゃってた」
「想像が飛躍し過ぎてるよ、お母さん」

 仕方ないのかな。お母さんは、私が幼なじみの流星に片想いしてたこと知らないだろうし。