声を聞くたび、好きになる


「おいしい?寮には食堂があるから料理する機会もめっきり減ったのよ。久しぶりだし張り切り過ぎちゃったかしら」
「そうなんだ。おいしいよ」

 むしろ、昔より美味しくなってる気がする。

 もしかして、料理を振る舞うような男性がいる、とか?

 私が海音と出会ったように、お母さんにも新しい恋人ができたんだろうか?父親と別れてからだいぶ経つし、そういう人がいてもおかしくない。

 これまでと違い、今日のお母さんはやけに明るい。それが、特別な人がいる影響なのだとしたら合点がいく。

 かといって、長年の共同生活により冷えきった母子(おやこ)の関係が急激に温められるわけでもなく、それ以上私達の会話は弾まなかった。お互いに、黙々と目の前の料理を食べ進めていく。

 こういう空気は、父親が居た時からずっとある。良くも悪くも私はそれに慣れてしまった。


 私が二杯目のご飯をおかわりして席に戻ったタイミングで、お母さんは切り出した。

「ミユに話したいことがあって帰ってきたの」

 食事中ずっと話すキッカケを伺っていた、みたいな口ぶり。

「今までちゃんと相手してあげられなくてごめんね。お母さん、悪い母親だったよね……」
「いきなり、何ー!?」

 わざとおちゃらけた調子で、私は明るく返す。深刻な空気は苦手だからやめてほしい。じゃないと、私は、昔捨ててきたはずの色んな感情に飲み込まれてしまう。

「いきなりじゃないの、ずっと思ってたことなのよ……」

 お母さんはお母さんで必死だった。

「真面目な顔で話があるなんて言うから、再婚の報告かと思ったよ。別に、私の許可なんて取らなくていい。お母さんの人生だもん、好きにしなよ」
「……二十歳にしては大人びたことを言うのねミユは。ううん、お母さんがそうさせちゃったのよね?」
「まあ、法律上は大人だから」

 作り笑いを顔に貼り付け話を切り上げようとしたけど、お母さんはまだ話したそうにしている。

「ミユ、ちゃんと聞いて?お母さんには交際している男性なんていないし、今後、再婚するつもりもない。ただ、どうしてもミユに会いたかった。会って、顔を見て謝りたかった……」

 そこまで勢い良くしゃべったかと思えば、次の瞬間気まずそうに、

「いきなり何?って、ミユは思うわよね。……警察から連絡を受けた後、芹澤さんからミユを預かるって電話があってね。ものすごく怒られたのよ」
「怒られた?海…芹澤さんに?」