声を聞くたび、好きになる


 私の表情から何かを察したように目を伏せつつも、海音は何も突っ込んでこなかった。

「色々あってミユもつらいだろうけど、これからは俺がついてる。もう、一人で抱え込むな」
「海音……」
「仕事中でも、出れる時は電話出るから」

 もう、東京に帰っちゃうんだ……。

 夕焼けの訪れをほのかに漂わせる水色の空が、物悲しい。

 うつむくことで涙を我慢する。海音はそれ以上何も言わず、そっと私を抱きしめてくれた。

 あたたかい感情が、海音の胸や腕を通して私の全身に流れ込んでくるみたいだった。しばらくそうしていると、寂しい気持ちはおさまってくる。何かの魔法みたいだ。

「じゃあ、もう行く。いつでも連絡して?遠慮はいらないから。って、今さら遠慮も何もないか」

 今日1日でさらした私の子供っぽい言動を思い出し、海音は肩を揺らして笑う。こっちもようやく気持ちが和んだ。

「からかい禁止!……色々迷惑かけてごめんね。ありがとう、海音」


 海音の運転する車が視界から消えるまで、玄関先で見送った。

 まだ付き合ってもいないのに、優しくしてくれる。

 今日、海音がそばにいて本当に良かった。


 海音とバイバイしたばかりで、とても他のことをする気にはなれない。

 そう思っていたのに、自室に戻り真新しい画材を広げると、次々とイマジネーションが湧いた。今なら、いいものが描ける!

 やる気ゼロの状態から、一気に覚醒した。

 パソコンデスクの横に画材を広げ、先日海音からもらった仕事の依頼書を見つめる。

 女性受けする男性キャラクターと、男性受けする女性キャラクター。それ以外にも、たくさんの登場人物のイラストを考えなくてはならない。

 描き慣れた男性キャラクターならともかく、男性受けする女性キャラクターなんてあまり描いたことがないので自信がなかった。そんな消極的な気持ちがウソだったかのように、作業の手はスムーズに動く。

 こういう女性なら、男性は好きになってくれるはず。女性の可愛いさはこういう部分でアピールできる…!

 色んな角度からそういったことを考えてイラストを描いた。


「できた!これだっ!!これでいいっ!」

 下書きが出来たら出版社のパソコンに原案の画像を送るよう指示されていたので、私はさっそく、出来上がったキャラクター原案を全て画像に取り込み出版社のアドレスに送った。