声を聞くたび、好きになる


 再び目が覚めると朝になっていた。

 寝起きの頭でぼんやり考えたのは、昼と夜はあっという間に終わってしまうんだなという、どうでもいい感想だった。


 夜中に目覚めた時と違っていたのは、枕元に人が居るということだった。

 夜中に目覚めた時は室内にひとりきりだったのに……。


 その人物が誰なのかがハッキリ分かった時、私は悲鳴すら忘れて布団の中に身を隠した。

「芹澤さん、何でっ!?」
「それはこっちのセリフです」

 芹澤さんが困った顔をしているのが見なくても分かる。とにかく、謝らないと!

 気まずい気分で、私はおもむろに上体を起こした。

「すみません。どうしてこうなってるのか、私もよく分かってなくて……。迷惑かけましたか?」
「迷惑ではありませんが……」

 芹澤さんは頭に手をやり、こういったシチュエーションは初めてだと言いたげに視線を泳がせる。

「警察から連絡を頂いた時は、驚きと心配で肝を冷やしました」
「警察、ですか……!?何で??」
「何も覚えていないのですか?」
「はい……」

 驚きで目を見開く芹澤さんは、言葉を選ぶようにゆっくり話し出す。

「昨日の夕方、戸塚さんは自宅近くの歩道でお酒の缶を片手に倒れていたそうです。そうとう酔っていたのですね。たまたま通りがかった警察が戸塚さんを保護し、私に連絡をしてきたのです」
「すみません……」

 どうして、芹澤さんが来たんだろう?こういう時は、普通、家族が…お母さんが来るものだよね?

 私の戸惑いや疑問を見抜いたみたいに、芹澤さんは補足説明する。

「同居中のお母様は、遠方の会社で働きそこの寮にお住まいですよね?なので、警察から連絡を受けてもお母様は戸塚さんを引き取りに来ることが難しかったそうです」

 そうだった。お母さんは、離婚してからすぐ派遣社員として他県の工場に出稼ぎに行っている。資格を持っていないことや年齢がネックになって、自宅近くで安定した正社員の仕事を見つけられなかったのだ。

「警察の方は、戸塚さんの財布から名刺を見つけてこちらに連絡してきたそうです。それで、私があなたの身元引受人になりました」
「すみません。何と謝ればいいか、分かりません……。まだ仕事の依頼もこなしてないのに、芹澤さんにはひどい迷惑をかけました」

 布団から出て、私は土下座した。

 新人だからといって、スカウト経由で専属契約した身だからといって、許される失態じゃないと思った。