声を聞くたび、好きになる


 一人で飲む酒の味にガッカリしたからといって飲むのをやめるわけでもなく、私は歩き出す。喉に炭酸のシュワッとした刺激が伝うと、不思議と涙はおさまった。

 ただ泣いていただけの時より周囲の視線がすさまじいけど、別にもうどうでもいいや。

 酔いって怖い。何もかもどうでも良くなってしまう。難しいことも、簡単なことも。

 流星はもう私に会う気がないみたいだし、私も私で、誰かに愛されてみよっかな。

 あそこに座ってる男の人とか、歩きながらスマホで電話してる男子高生。こっちから声かけたら、いい反応してくれるかな。


 私はお酒に強い。意識ははっきりしている。

 そう過信していたせいか、自分が今どんな状態なのか、私は全然分かっていなかった。



 …――心配したよ、ミユ。

 視界を占める真っ暗闇。意識と無意識の境界線で流星の声を聞いた。それと同時に感じたのは、おでこに触れたあたたかく柔らかい感触だった。

 

 目が覚めると、私は知らない部屋にさっきの服のまま寝かされていた。

 ここはどこ??

 自分の部屋でもなければ、モモや流星の家でもない。ホテルか旅館の一室なのだということは、かろうじて分かった。

 畳の香り溢れる和室。鮮やかで風情のある模様をした布団に、私は寝かされていた。

 真っ暗な室内を照らすのは、枕元にあるオレンジ色の小さなランプだった。柔らかな光に安心しつつ起き上がった瞬間、激しい頭痛に襲われた。

 容赦なく襲う痛みに耐えきれず、布団にうずくまる。

 もう、夜なんだ。さっきまであんなに明るかったのに。


 ここはどこ?今は何時?

 疑問は、痛みにかき消されていく。

 そのまま、私は意識を失った。